読書感想文

時は来た。それだけだ。

これから「正義」の話をしよう

タイトルだけは知っており、何の本なのかは分からないがベストセラーだ…ということで手に取った。正義とは何か?正しいこととは?という問に対して、哲学者(ベンサム、カント、ロールズアリストテレス)の論に触れつつ、考えていくもの。当然答えは出ない。全体的に内容が難解であり、理解が出来たとは到底言えないが、考えるきっかけになった。

功利主義

ベンサムによれば正しい行いとは「効用」を最大化するものであり、効用とは快楽や幸福を生むすべてのものであり、苦痛や苦難を防ぐすべてのものである。誰か一人が多大なる重荷を背負うことで、他の全てが幸せになることで効用が最大になることも考えられる。これについては当然「個人の権利」は蔑ろにされてしまう。そして、人の価値観によって効用の最大化という捉え方も変わってくる(快楽の単一化になってしまう)ということから、功利主義は現代では受け入れられづらいものだろうということだった。

リバタリアニズム自由至上主義

根底にあるのは自身の所有権は自身にあるという考え方だ。これにより、課税は不当なものであり、分配は以ての外であるということになる。つまりリバタリアンの中では最小国家こそが正しい国家である。腎臓を売る、代理出産卵子移植をしない純粋な代理出産)をするなど、殆どの現代国家が法的に認めてないことを支持する考え方になる。

こう書いてしまいたくないが、10代~20代前半の考え方はこれに近い気がしている。社会に属するものとしての考えが希薄(極端だが飲み会に参加しないなど)というものの根底に、「自分の所有権は自分にある」という考えが強くあるように感じる。彼らに、「じゃあ課税はしないし、腎臓も売るのですね」と言えば、それは道徳的に反するということとなる(カント)し、コミュニティ的にも反する(マッキンタイア)のである。振り切ってはないが、危険な徴候であるのではないかと考えた。

イマヌエル・カント

カントの哲学は非常に難解である、という振り出しであったが、確かにその通りだった。人間には理性があり、理性で動いている時こそが人間であるというもので、その理性とは道徳に基づいている。(と、理解した。)

義務の動機だけが行動に道徳的な価値を与える。思いやりからなされた善行は道徳的な価値に欠ける。これらは原理的に定言命法として触れられている。

「あなたの意志の格律が常に同時に普遍的な立法の原理として妥当しうるように行為せよ」

簡単に例を示せば、衰弱している母親が兄弟の近況を教えてくれと懇願した際に、数日前にその兄弟が死んだことを伝えるかどうかだ。思いやりで嘘をつけばそれは母親を理性的な存在として尊敬していないので間違っているということになる。

これら全ては自律した行動であるべきであり、他律の要素が入ってしまうとそれは義務の動機にはならない。他律=外的要因となり、前述の母親の件は「母親はそう言われた時どう感じるか」という思考が入っており、義務の動機とは外れる。

ロールズによる平等の擁護

ロールズによれば無知のベールを被った状態こそ正しい判断ができるとする。無知のベールとは立場や人種、現在おかれた状況など全てを知らない、全員が完全に平等となる状態である。これはカントが述べた事に共通しており、「他律要素は排除すべき」ということになる。また、実力主義においても現在の立場を得たのは自分の努力が全てというわけでないということも述べており、功利主義自由至上主義を排除している。

特にこの点については納得感があり、確かに実力主義とはいえ自らのキャリアについて再現性があるとは到底言い難い。一流大学の一般試験で合格し、かつ大手企業に入社して多額の報酬を得たとしても、それは本人の努力というわけではなく周りの環境に依存するというものだ。どうやら、長男/長女は次男/次女よりも努力をするという傾向があるらしい。因果性や科学からは到底離れたアンケートではあるが、マイケル・サンデル教授がハーバード大学(当然超一流の大学ですよ)で挙手制のアンケートをし、自分が長子であるものは手を挙げよとしたところ、約75~80%が挙げたそうだ。

この話については自分自身にとっても興味深い話であり、なおかつ身に覚えがあるものだった。

アリストテレス

正義は目的/名誉にかかわり、それは何のために行われる、存在するものなのか(目的因)。目的因から外れるものは正義ではない。

マッキンタイア

これはリバタリアニズムに対する反論でもあるが、個人主義とは相容れないというもので、マッキンタイアによれば「人は物語る存在」である。今の自分を形成するものは生まれた国であり、その歴史であり、両親であり、環境であるために個人主義というものは正義ではないということだ。

国に対する忠誠心=愛国心を持つ/持たざるというのは、まさにそれを示しており、わざわざ契約をせずとも「そこに生まれた」というのは忠誠心、愛国心を持つにふさわしい。

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同性婚についても触れている。(マサチューセッツ州裁判長・マーガレットマーシャル)個人主義/自由主義であれば、「望んだ人と結婚することが正しい」となるが、これは一夫多妻/一妻多夫をも認めることになるし、目的論的に考えれば「生殖行為」が結婚の目的と考えられることにもなる。同性婚の否定派の根源にあるのは後者だ。結婚とは独占的愛情関係であり、そしてそれに賛同する国家がいてこそだとしている。

婚姻というものが完全に私的なものになってさえしまえば、同性婚であり、事実婚であり、全てが良しとされるが、一方でそれに対する公的な処遇はどうなされるのか、ということもある。

 

2022年、現時点では上記の哲学者が生きた時代よりもより一層多様な世の中となってきている。特に婚姻や、自由のあり方ということについては10年前とは大きな違いがあると思う。(この本が出版されたのは約10年前だ)

今こそ哲学を学び、深く考える必要がある。正義とは何か?正しさとは?ぜひ一度は考えたい。そのきっかけとなる本だった。