読書感想文

時は来た。それだけだ。

アニメビジネス完全ガイド

アニメ業界に身を投じるにあたり、業界のことをよく理解しなければならないということで色々と目を通してみたが、どうやらこの本が短いながらも業界全体を俯瞰するという意味では適していたようだった。

制作と製作の違い

言葉遊びのような感覚もあるが、役割が明確に異なる。制作は Create であり、製作は Produce になる。つまり制作は映像としてのアニメーションそのものを作る行為で、製作は企画から始まり、資金集めなどにも奔走する最終的な責任者としての役割となる。

そして著作権を持つのも製作側であることから、制作現場にはお金が落ちていかないという論調が今も根強い。アニメオタクをやっていると「アニメーター低賃金問題」であるとか「製作委員会が諸悪の根源」というような話をよく目にした。もう10年以上、個人的に付き合いがあるアニメーター(キャラクターデザインや作画監督まで行う著名な方)からも酷い労働環境の話はよく耳にしたし、作画監督を担当してやっと同年代のサラリーマン同等の給料を貰えるようになった、という話も聞いた。その上で不夜城となるアニメスタジオのような労働環境(世間一般のイメージそのもの)も過去には実在していて、 SHIROBAKO で描かれている世界も「P.A. WORKS さんは良い会社だからあれで酷いって思えているんだよ」というような地獄のような話まで聞くことが出来た。

実際、この低賃金問題は本が書かれた2018年時点では解消されてはいなかったが、少なくとも長時間労働は是正されているように読み取れる。これだけ世間一般のイメージが出来上がれば労働基準局も黙っておらず、労働環境の是正に動いたようで、殆どのアニメスタジオには指摘が入ったことで今では22時には完全にビルが閉まるというようなスタジオも少なくないようだった。

製作委員会は悪なのか

この本のタイトルにも使われている言葉だったが「製作委員会は悪なのか」ということについては、様々なところで「逆に制作現場を守る為の組織」と言われている。確かに製作委員会は製作側(業界内では衣が有るかないか、というような言葉を使う)であるので作品が大ヒットすれば大きなお金が入ってくる。しかしながらそれは大ヒットしたから入ってくるのであって、ヒットしない場合はどうなるのかといえばシンプルな話で赤字となってしまう。この赤字について制作側は責任を負わない。前段の通りで制作はあくまで Create なので、責任を持つ Produce の側ではないからだ。このような製作委員会が悪というような論調に至ったのは様々きっかけがあったようだが、業界内ではそんなことはなく、あくまでイメージでしかない模様である。

今後のアニメ業界

NetflixAmazon Prime など配信プラットフォームが大きな力を持つようになり、制作が製作に回れるようになる大きなチャンスが眠っている。しかしながら日本において制作会社はどちらに転ぶか分からないハイリスクハイリターンの為の費用を捻出するほどの体力がなく、多くの会社が過去のままの形であり続けることは予想される。直近の東洋経済の記事 Netflixが日本での「アニメ製作」を減らす事情 でも触れられており、プロデュースの難しさから製作に上手く回ることができないという意見が出ている。しばらくは現状のような製作委員会方式が多数を占める状態からは変わりそうにない。