読書感想文

時は来た。それだけだ。

岩田さん - 岩田聡はこんなことを話していた。 -

任天堂の社長を務めていた岩田聡さんが亡くなられて7年が経った。もうそんなに経つものなのか。随分と昔の事のように感じてしまう。検索して Wikipedia を見ていたらまた時間が経ってしまった。本当に惜しい人を亡くしたものだとつくづく思う。

そんな岩田さんが過去話したインタビュー等などをまとめた1冊で、ゲーム業界に携わる人はもちろん、そうでない人も一度は読むべきだと感じた。

1on1(面談) の重要性

多くの会社や組織で起こっていることだとは思うが、トップの考えている事が上手く伝わらずに「なぜこんな判断を?」とモヤモヤすることがある。このモヤモヤするところの本質は情報が足りないから判断できない。つまり情報を与えれば判断できる。物事の決定についての背景にあるものを情報として伝え、この状況下だとあなたはどう判断する?と問いかけ、同じ判断となれば同じ方向に向かう。会社/組織において「全員が同じ方向に向かっている」ということに大きな価値があることは言うまでもない。これをHAL研任天堂の社長時代にやっていたそうで、HAL研はともかく任天堂の社長時代にやるのは非常に骨が折れたと思う。ここはサボってはいけないということだろう。

得意な事とは

やりたい事ではなく、かけた労力に対して成果が大きいことこそが得意な事である。これは岩田さんではないが私が勤めていた会社の社長にも言われたことで、「やりたくない、得意じゃないと思ってるのに頼まれる仕事こそがお前の得意な事だよ」ということだった。本質的にまったく同じことを岩田さんが言っていて、私の場合はそういった仕事(=やりたくない仕事)を大量に頼まれて、しかしながら処理する能力は人と比べて随分早かったので更に頼まれたことがあった。それによって評価も上がり、給与も上がっていったので文句は無かったが、「得意じゃないし好きじゃない事ばっかりやってたら周りは評価してくれるなぁ」と思ったものだ。それはそれで嬉しかったので、これこそが自分が真に得意な事なんだろうと後から思ったものだ。

ご褒美を見つけられる能力

ゲーム開発で中心となる報酬についての話で、「なぜかやってしまうゲーム」がどういう理屈なのかが語られていた。かけた労力よりも得られる報酬が大きいものはついついやってしまうという話で、これは「シリーズもののゲームをずっとやってしまう」に通じるものがある。私はモンスターハンターシリーズをよくプレイしていたが、初代から基本的なゲーム設計が何も変わっていないので、一度やり込んでしまえばその後のシリーズは少ない労力で大きい報酬が得られる。ついついやってしまう、ということの説明がつく。これがゲーム以外の全てに言えることで、英語学習が長く続く人とそうでない人の違いにも通じる。≒「得意な事」なことだとも思うが、それに気づいてないということは報酬を報酬として理解していないのだろう。難しい話だ。

名は体を表す

岩田さんは名前をつけるのが得意だったと、宮本茂氏が語っている。組織の名前、会議体の名前。名前さえ上手につければ、あとは勝手に動いていく。これは元々糸井重里氏が得意だった(コピーライターなのだから、それはそうだ)とのことだが、まさに名は体を表すということを地で行っている。今私が所属している部署はかつてよくわからないアルファベットを羅列したチーム(活動内容を英訳したものの頭文字だったらしい)だった。そのせいか本来やるべきではない仕事を押し付けられることが多く、対外的にも社内的にもよくわからないということでしっかり機能を表す名前に変えた。その後は活動内容と組織名が一致することで社内の理解も得られるようになった気がする。逆パターンで目立つのは「妙な会議名」だ。一見して「これ何の会議?」と思ってしまうものは、会議が変な方向へ行ってしまうことが多い。潜在的に、会議がおかしな方向に向かってしまった時の歯止めになるんだろうと思う。「なんとなく」で決めたネーミングにろくなことはない。

 

最後に、宮本茂氏が「岩田さんが本を読み始めたタイミング」を語っていた。経営者になったタイミングだそうで、ビジネス書を大量に読み始めたそうだ。新しいことの発見ではなく、自分が今まで思ったこと、考えたこと、経験したことの裏打ちになる本を探していたそうだ。これは今自分が行っていることにも通じていて、まさに「裏打ち」となった。

最近、誰かと話す時に常々言っているのは、「キャリアとしてアウトプットが一段落したら本を読むと良い」ということで、ゲームが好きな若い人に対してはこのようにも話している。「攻略が行き詰まったら動画見るよね。動画見たら、自分がやったことが正しいかどうかとか、何が間違っているのかも見えてくるよね。でも、まったくやったことないゲームの動画見ても何も分からないじゃん。だから本を読むのもタイミングによって意味が随分変わってくるよ。」という話で、我ながら随分良い例え話をしたなと思う。

これは特に部長以上の役職についている人間はやるべきことで、自分が読んで感銘を受けた本を部下に推薦して読んでもらうことで意識の統一も図れる。この人はこういう事を考えてたのか、と納得してくれることで自律的に動いてくれることもあるだろう。マネジメントが苦手だと感じてる人は、自分が良いと思った本を「業務中で良いから読んでくれ」と渡すだけでも上手くいくんじゃないだろうか。

 

本当に良い本で、随分久しぶりに1日で1冊を読み終えてしまった。眠くなることもなかった。元同僚に、「生前、岩田さんと話したことがあって。本当に素敵な時間で、今でもとても大事な経験になってるんです」と語られたことを思い出した。羨ましい限りだ…。