読書感想文

時は来た。それだけだ。

失敗の本質 日本軍の組織論的研究

大東亜戦争における日本軍の失敗について、題の通り「組織論」的に突き詰めていった本。

前提として必要とされる知識が多い為に少々読みづらく、この本を簡略化した解説本的なものも多く出版されているほど。その読みづらいとされている箇所は本の6割を占める第一章の各ケース解説で、そこは飛ばし飛ばしでも問題にはならない。

重要なのは第二章からの失敗の本質及びその分析である。取り立てて重要である(個人的に)と感じた箇所について記載していきたい。

  • P268 2章 失敗の本質 - あいまいな戦略目的
    何から何までがあいまいな目的設定でないものの、組織間の認識ズレや、誰かを慮るという複数要素から徐々に目的があいまい(棘のない)となり、「察するべき」部分が拡大していった。

    特にミッドウェー作戦の作戦目的が「ミッドウェー島を攻略し、~、攻略時出現することあるべき敵艦隊を撃滅するにあり」と目的が二重になってしまっていることが重大に思える。

  • P308 2章 失敗の本質 - 人的ネットワーク偏重の組織構造
    官僚制度の中に情緒性を組み入れてしまったがために、組織間でメンツを立てるような行為が散見され、更にはメンツを立ててもらった人間による個人的事由の為に本来持ちうる権限を飛び越えた作戦を実行し、損害が広がっていた。

  • P325 2章 失敗の本質 - 学習を軽視した組織
    作戦失敗における反省を活かすことがなく、「敗戦が分かりきっていることを分析することは死人に鞭を打つようなものだから」と、ここでも人的ネットワークの配慮が優先されている。更には成功体験が厄介なものとなっており、その成功は偶然(対外的なものから)だったにも関わらずなぜ成功したのかを論理立てて分析しなかった為に足かせとなっていた。

プロセスや動機を重視した評価という箇所についても重要ではあったが上記の3つに共通する内容で、結果よりも人的ネットワークであったり精神論的なものが優先された評価になったために失敗している。「官僚制度の中に情緒性を組み入れた」というのが全てである。

 

筆者のあとがきも含め、読了後は天を仰いでしまった。公的機関、民間機関問わず日本の組織は日本軍の失敗を繰り返しているように感じる。

リーダーシップの弱さや、人的ネットワークの配慮から来る目的設定の曖昧さや二重目的というのは今でもある。第一章で記載されていた米軍との比較でも「目的設定が細部にまで行き渡っていない」ということがあった。細部まで行き渡ることで不測の事態が起きてもそれぞれが自走するために目標を達成できるというものだが、直近で起きているようなKDDIの通信障害、みずほ銀行のシステムトラブルを始め、事件事故の対応遅れというのはこれに尽きると感じる。勿論私が所属する企業でも同様の問題は起きている。私の組織では幸いにも頭から足先まで同じ目標に向けて走ることができた為に上手く行っていたが、今回この本を読んで「なぜ上手く行ったのか」という答え合わせが出来た。

そして、過去失敗したプロジェクトを思い返すと、全てこの日本軍の失敗に共通する箇所がある。多くの戦死者が出た大東亜戦争から日本人は学びを得ておらず、更には何も変わってないということを痛感した。何とも情けない話である。